東京大学大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 喜多研究室
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研究内容の紹介




当研究室では,次世代の電子デバイスの革新のための物質科学や,それを通じた省エネルギー社会への貢献を目指した研究を行っています。最も重要となるのは,デバイス材料のつくる界面のナノ領域での物性の制御の研究(ナノスペース機能学)と,デバイス実用化に必要となる要素技術の開発です。現在は,主として以下の研究テーマに注力しています。
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<学内広報誌で紹介されています!>

「学生がつくる東大工学部広報誌 Ttime!」2022年夏号に,喜多教授へのインタビュー記事が掲載されています。これから進路を選ぼうとする学部生や高校生諸君へのメッセージです。
Ttime! 2022年夏号 「高効率な電力変換のための半導体デバイスの研究」へのリンク)
新領域創成科学研究科の広報誌『創成』 第40号(2022年9月発刊)の「FRONTIER SCIENCES」で喜多教授が紹介されています。
創成 第40号「電子デバイスの進化を支える物質科学」へのリンク)


高効率電力変換デバイスの要素技術と高性能化
パワーデバイスは,電力利用のあらゆる過程の変換に用いられるので,その性能が社会全体の電力利用の効率に直結します。材料とプロセスの革新によってその高性能化を達成すれば大きな省エネルギー効果が期待できます。当研究室では,パワーデバイスの動作時の熱的なエネルギー損失を低減する切り札として期待されるSiCデバイスに着目,その画期的な高性能化を目指した研究を行います。また,次世代のパワーデバイス材料として開発の始まった酸化ガリウムβ-Ga2O3の基礎技術の構築も進めています。

1. SiC パワーMOSFETの高性能化技術
- SiC MOS界面の欠陥低減技術の開発
- SiC上への酸化物薄膜形成過程の高精度解析と,界面の微視的構造の理解
- 熱処理に伴うSiC表面 数nm領域での反応解析

SiCとゲート絶縁膜SiO2の界面では,熱酸化の副生成物の炭素が界面の形成を阻害し界面欠陥の原因となります。炭素をいかに速やかに界面から排出するかが大きな課題と考えられます。当研究室では,酸化反応条件の制御によってCO排出を促進することが重要になると考え,ナノ膜厚領域での酸化過程について高精度な解析を進めています。

   
 ▲ SiCの熱酸化によるSiO2成長の模式図。界面欠陥の抑制が必要。 ▲ 4H-SiC(0001)面上のナノメートル領域での熱酸化過程を解析すると界面反応律速モデルに従う。(X線反射率を用いたナノ膜厚高精度計測)

当研究室では,熱酸化条件を制御して炭素の析出を排除することで,世界で初めて熱酸化だけで4H-SiC上で界面準位密度を1011cm-2eV-1以下へ低減する熱酸化手法を開発しました。4H-SiC(0001)上で得られる界面準位としては世界最小レベルです。実際の工業プロセスでは,SiC表面に窒素を反応させてSiC最表面の炭素原子を窒素で置換した構造をつくって界面準位を抑制する手法が用いられています。当研究室では,SiC表面での窒素の反応率を高めて界面準位密度をより効果的に低減する指針を検討しています。
     
 ▲ 4H-SiC(0001)面上のMOSキャパシタのC-V (capacitance-voltage)特性。周波数分散は小さく,点線で示す理想特性に近い特性が観察される。   ▲ SiC再表面での窒素導入と同時進行する酸化反応が同時進行するモデルに基づいて,SiC表面への窒素導入を増大させるための条件を抽出すれば界面準位密度(Dit)を低減できることを実証した。

熱酸化によって形成されたSiCとゲート絶縁膜SiO2の界面には,歪んだSiO2が成長します。この界面遷移層の存在によって,格子が全く整合していないにもかかわらず欠陥密度の低い界面が実現します。界面の本質的な特性を決定する重要な因子の理解のためには,SiC MOS界面構造の詳細な物理解析が不可欠です。例えばSiO2に他元素をドープして界面近傍のSiO2の歪みの大きさが変化させることもでき,これが界面特性の制御に重要なはたらきをする可能性があります。
   
 ▲ SiC上の熱酸化膜の構造が界面近傍の数nmで大きく変化するため,格子振動ピークの大きなシフトが検出される(FTIR-ATR解析)。 界面から〜nm程度の領域に着目すると,SiC上の熱酸化膜の構造は結晶面に強く依存する。格子振動ピークのシフト量は(0001)面と(000-1)面で大きく異なることを発見した(FTIR-ATRの膜厚依存性)。

2. 次世代パワーデバイス向けた酸化ガリウムβ-Ga2O3デバイス形成技術の基礎
- β-Ga2O3 パワーMOSFETの実現へ向けたMOS界面の形成技術の開発
- β-Ga2O3上 SiO2薄膜成長技術の開発と界面反応の理解

超ワイドバンドギャップを有するGa2O3は,次世代のパワーデバイス材料への応用の可能性が期待されています。中でも,溶液成長による大口径ウェハの製造が可能とされているβ-Ga2O3は,エピタキシャル膜成長技術やn型ドーピング技術なども確立されつつあります。もしβ-Ga2O3で高品質なMOS界面形成技術が確立できれば,高性能なMOSFETの実現が期待できます。当研究室では,β-Ga2O3上へのSiO2成膜技術とMOS特性制御技術の検討を進めています。

   
 ▲β-Ga2O3(001)エピタキシャルウェハとSiO2絶縁膜の界面の断面図。原子レベルで平滑な界面が形成できる。    ▲開発中のβ-Ga2O3とSiO2でつくるMOS界面のイメージ図。酸化物同士の界面でありながら,半導体から絶縁体への急峻な変化を示すことが期待される。

次世代電子デバイスのための絶縁膜界面制御と新規誘電特性の探索
最先端のCMOSデバイスやメモリデバイスには,その機能を革新するための新しい材料の導入が不可欠です。また情報端末の爆発的な普及によって先端デバイスの消費電力の低減が急務となっていますが,そのためには多くの要素技術の開発が求められています。例えば低電圧で高性能なMOSFETを駆動するためには,トランジスタの動作を決める閾値電圧を緻密にチューニングできるゲート絶縁膜形成技術が不可欠です。また,超低消費電力で動作する高密度な新規メモリの実現には,強誘電性ナノメートル薄膜など,新しい機能を持つ誘電体薄膜の開発が求められます。

3. 先端CMOSゲート絶縁膜の物性と界面の物理
- 高誘電率ゲート絶縁膜(High-k材料)の物性制御
- 酸化物界面に生じるダイポール効果の発現機構解明と,高度な閾値制御への応用

2つの異なる酸化物の界面で,絶縁体同士の界面であるにも関わらず,”界面ダイポール効果”によって電子のエネルギー障壁が現れることがあります。この界面効果はMOSデバイスの動作に大きく影響を与えており,例えば最先端トランジスタの閾値の高精度なチューニングには,この界面ダイポール効果を制御しながら利用することが重要となります。本研究室では,その高度な制御指針の確立と,ダイポールの物理的な起源の解明を目指しています。
 
 ▲High-kとSiO2の界面に形成されているダイポール層のイメージ(High-k側からSiO2側へ向かうダイポールの場合)。 ▲ High-kとSiO2界面に現れる界面ダイポール効果の大きさは,High-k材料中の酸素原子の密度と相関する。High-k酸化物の微視的構造がダイポール効果を決定する重要な因子の1つとなる。

4. 原子層堆積法(ALD法)を利用した絶縁膜の新規誘電物性の発現のための材料設計
- 強誘電性ナノメートル薄膜の高機能化のための材料設計とALD成長技術
- HfZrOx/電極界面近傍ナノ領域での界面構造と反応の理解


HfO2やHfZrOxは,ナノメートルの厚さで強誘電性を発現する性質があり,次世代のナノ強誘電デバイスの実現が期待されています。その強誘電性の起源は,薄膜内に生じる直方晶のHfO2やHfZrOxにあります。そこで薄膜が示す残留分極はナノ薄膜の結晶性に左右されます。本研究室では,ALD法を利用して,薄膜の積層構造の設計や熱処理による結晶化過程の制御に取り組んでいます。さらに,強誘電性の発現に大きな影響を与える因子として,薄膜にかかる応力や,電極とHfZrOxの界面反応が重要です。例えば機械的な歪みを与えることによって残留分極値が変化することを見出しているほか,電極界面での反応の進行が強誘電性の劣化に直結することを明らかにしています。
     
 
 ▲ALD法による強誘電性HfZrOxのナノ薄膜の形成。結晶制御層を界面に挿入することで強誘電性を向上できる。    ▲強誘電性HfO2薄膜への機械的応力印加が残留分極を変化させる現象の発見

 
 東京大学大学院新領域創成科学研究科 喜多研究室